最近、レオンはいつも幸福1号店にいる。
MGが不思議そうに尋ねた。
MG「レオンはなんでいつもここにいるの?」
レオン「ここは情報が集まりやすい。どこの国にも偏らず動けるからな」
幸福1号店は、レオンにとって“中立地帯”のような場所になっていた。
ある日、VVが不在の時間帯に、目の見えないスマートな男性が店を訪れた。
彼は数週間前から、このカフェに来るようになっていた。迷いなくカウンターへ向かう。
男「今日は、あの中国系の女の子はいないのか?」
ナディア「今日は不在です。でも、どうしてVVがいないって分かったんですか?」
男「目が見えないと、他の感覚が鋭くなるんだ」
淡々とした声だが、どこか柔らかい。
ナディア「今日は何を買いますか?」
男「そうだな……幸福1号の苺、レモン、マンゴー味。Joy55号サバ味と、Joy55号バナナ味も」
ナディア「全部覚えてるんですか?」
MG「ていうか、それ全部食べるの?」
店の奥で新聞を読んでいたレオンは、男の気配にわずかに目を細めた。
(……同業者だな)
この頃、VVは幸福商会の立ち上げで忙しく、店はMG、ナディアとマナが切り盛りしていた。
フランス租界のドイツ系パン店・エリサが、ドイツパンや菓子を納品している。
幸福1号ケーキなどのメニューはVV、MG、ナディア、マナ、エリサが考案したものだが、実際に作っているのは、VVや紅烈が世話をしている孤児たちだった。
数日後、次に男が店を訪れたとき、今度はVVがいた。
男「久しぶりだな」
VV「はい。前に会ってから、なかなか会えませんでしたね」
男「実は、前から君をずっと探していたんだ」
VV「私を?私は店にいないときは商会にいますよ。いつでも来てください」
男「いや……その時からじゃない。もっと昔から、俺は君を知っている。君はずいぶん成長して、美しくなった」
VVは驚き、男の目を見つめた。
VV「あなたは目が……昔は見えていたの?」
男「ああ。でも今でも“感じる”ことはできる」
MG「VVだけが美しいと思ってるのね」
男は微笑んだ。
男「VV、君が小さい頃、上海ブラックウェル家に“ガン”という少年がいたのを覚えているか?」
VV「……あの私のボディガードだったガン?」
男「そう。俺だ」
VVは息を呑む。
VV「ガン……あなたは手りゅう弾の爆発に巻き込まれて、その後、二度と姿を見せなかった」
ガン「あの時に目をやられてな。それでアメリカの本家に呼び戻された」
ガンはふっと笑う。
ガン「君はあの時、俺に“将来結婚しようね”って言ってたんだぜ」
VV「覚えてるわ。私は8歳だった。でも、その約束は今も有効よ」
ガン・ブラックは上海ブラックウェル家を守って怪我をした後、アメリカ本家に戻され、軍人家系のコネで米軍諜報部に派遣された。
彼は耳が異常に良く、複数言語を聞き分けられるため盗聴を担当。
左目は義眼、右目もほとんど見えないが、音の方向に手を伸ばす感覚で銃を撃てる。
ガン「実は、俺が上海に来たのには、訳がある。今日まで様子を見ていたんだが、どうも切羽詰まってきたようだ。ニューヨークの本家ブラックウェルからの刺客が上海に到着したらしい。本家は昨年の大恐慌で破産寸前だ。そして分家である上海ブラックウェルの財産を狙っている。ニューヨークの当主タウシュ・ブラックウェルは上海ブラックウェル家の三人――アッシュ三世(VVの父)、アッシュ四世(VVの兄弟)、そして君を殺そうとしている」
VVの顔色が変わる。
VV「ニューヨークのパパは……大丈夫なの?」
ガン「三世はニューヨークで君の母と暮らしている。まだ自分が危険だとは知らないと思う。……まず上海を片付けて、急いでニューヨークに行こう」
VVはガンをレオンに引き合わせた。ガンはレオンに刺客の居場所を伝える。
ガン「20人の刺客が5つのアジトに分散している。どれくらいで片付ける?」
レオン「3時間だな」
ガン「ブラックウェルの刺客だぞ?3時間で…」
レオン「ただの私兵だ。俺の相手じゃない」
レオンは少年探偵団の子どもたち30人を集め、手榴弾(催眠ガス入り)を渡す。
ガン「子供を使うのか?」
レオン「計画が完璧なら、子供でもできる」
子どもたちは遊んでいるふりをして敵の帰りを待ち、VVの合図の花火で敵のアジトに手りゅう弾を投げ込む。
手榴弾は爆発せず、催眠ガスが広がり、紅烈が眠った刺客を回収していく。
逃げ出した刺客はガンが走り寄り瞬時に取り押さえた。
レオン「暗闇でも、さすがだな」
ガン「俺は暗闇の方が得意だ」
20人を捕らえた後、レオンは紅烈に「しばらく、幸福食堂の飯でも食わせておけ。暇そうにしてたら皿洗いでもさせろ」
VV、MG、レオンとガンは、レオンの“影のルート”でニューヨークへ向かう。
ナディアの高速船で上海→アラスカ、米軍の飛行艇でシアトル、高速鉄道を乗り継ぎ、計10日でニューヨークへ到着。
ニューヨークに到着後、アッシュ三世と朱韺が住むアパートに急行し、二人を保護した後、レオンたちは本家を急襲する。
若き当主タウシュはVVに泣きつく。
タウシュ「君を傷つけるつもりはなかったんだ!誘拐して結婚しようと……」
VV「気色悪っ。私には結婚を約束した人がいるのよ」
MG「そんな人いた?」無口になるガン。
居合わせたタウシュの妹ティアナは兄を叱り飛ばす。
「私はお兄さまを損ないました!」
VVは本家の清算を宣言し、従業員救済のために提案する。
VV「幸福2号店をニューヨークに出すのよ!」
清算作業は遅れて船で到着したアッシュ四世とマナが担当。Monroe(モンロー)手回し計算機を使って大量の計算をこなしていく。
四世「清算後も資産が少し残せる。後はティアナに任せよう」
ティアナが幸福2号店を経営し、事業は軌道に乗る。
元当主タウシュは幸福2号店で清掃員として働き始める。
タウシュ「俺もいつか……自分の店を……見てろよ……」
事件後、VVが上海に帰り際、ガンは静かに言った。
ガン「俺はブラックウェルを辞める。そして陰でいることもやめる。だからもう、ブラックじゃない。これからはブルーを名乗るよ。落ち着いたら俺も上海に行く」
VV「待ってるわ」
VVはガンの頬にキスをした。ガンが赤くなる。
MGが横から茶々を入れる。
MG「赤くなった。ブルーじゃなくてレッドだわ」
【s00022】